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琉球舞踊 雑踊りの「貫花」を撮影しました。

撮影日:2023年9月23日

踊り:平田晴香さん

琉球舞踊 雑(ぞう)踊りの「貫花(ぬちばな)」は、恋心を表現した踊り。前半は貫花を持ち、後半は四つ竹を持って軽やかに踊られます。その歌詞は次のようになっています。


できやよ押し連れて あたり花もりが

花や露かめて もりやならぬ


一緒に庭の花を摘みに行きましょう

でも花は露を湛えていて摘むことができません

白瀬走川に ながれよる桜

掬て思里に 貫きやりはけら


白瀬走川に流れている桜の花をすくって

いとしいあの方のために花輪を作って首にかけてあげましょう


赤糸貫花や 里にうちはけて

白糸貫花や よ得れ童


赤い糸で貫いた花はいとしい人にかけてあげましょう

白い糸で貫いた花は子どもたちにあげましょう

打ち鳴らし鳴らし 四つ竹は鳴らち

鳴らす四つ竹の 音の美らさ


打ち鳴らし鳴らし 四つ竹を鳴らし

鳴らす四つ竹の音の美しさよ


今日や御座出でて いろいろの遊び

明日や面影の たちゆらと思えば


今日はお会いしていろいろな遊びをして楽しかったのですが

明日は面影が立つと思えば 名残惜しくなります

まだまだ暑い9月下旬の沖縄。まばゆい日差しの中で踊っていただいた貫花は、美しくもどこか儚さをまとっているようで、まるで夢の中にでもいるかのようでした。


(上記の歌詞の意味は、書籍やインターネット上の情報を参考に上田自身が編集して載せたものです。)

琉球舞踊 雑踊りの「加那よー」を撮影しました。


撮影日:2023年4月16日

踊り:大屋柚稀乃さん

雑(ぞう)踊りとは、琉球舞踊の中でも琉球王国時代に作られた古典舞踊ではなく、戦後に作られた舞踊のことを言います。その中の「加那よー」は恋の踊りであり、愛しい人への思いを描いています。その歌詞は次のようになっています。


面影の立てば 宿に居らりらぬ

できやよ押し連れて 遊で忘ら


愛しい人の面影が立てば家にじっとしていられない

さあ連れ立って出かけ、唄や踊りを楽しんであの人のことを忘れよう

貫木屋のあさぎ 手巾布立てて

我が思る里に 情呉らな


立派な家の母屋の別棟で愛の印の手巾を織って

あの人に愛情の印として差し上げましょう


情呉るばかり 手拭呉て何しゆが

腰くん締める めんさ呉らな


愛情の印というなら手巾をあげてどうするのですか

それなら腰に巻くミンサー帯をあげましょう

遊で忘ららぬ 踊て忘りらぬ

思勝て行きゆさ ありが情


愛しい人のことは遊んでも踊っても忘れられない

思いがますます募っていくばかりです、あの方の愛情で


この日は、沖縄に黄砂が舞い飛んできた日でした。少しモヤがかかった風景は、この踊りが表す恋心を幻想的に演出するかのようでした。年に一度あるかないかの稀有な日でした。


(上記の歌詞の意味は、書籍やインターネット上の情報を参考に上田自身が編集して載せたものです。)

琉球舞踊 古典女踊りの「苧引」を撮影しました。


撮影日:2022年7月16日

踊り:仲嶺夕理彩さん

「苧引」の苧とは、沖縄本島では糸芭蕉を指します。大切な人のために糸芭蕉から着物を作って差し上げたい、という美しい手踊りです。その歌詞は次のようになっています。


あたり苧や績みやい 二十読布織やり

玉黄金里が 御衣よすらね


屋敷内の苧麻を紡いで二十読もする極上の布を織って、大切なお方の着物を縫って差し上げたい

あたり苧の中ご 真白ひき晒ち

里が蜻蛉羽 御衣よすらね


屋敷内の糸芭蕉の芯を真っ白に晒して、あのお方にとんぼの羽のような薄い着物を縫って差し上げたい

上の写真の背景に写っているのは、まさにその糸芭蕉です。そこから糸を取り出し、染め、織り上げるのはとても大変な作業です。相手への思いの強さが伝わります。

太平洋戦争により継承が途絶えてしまっていた踊りでしたが、戦後、柳清会家元の比嘉清子氏が復活させたことで、今の私たちも見ることができます。

(上記の歌詞の意味は、書籍やインターネット上の情報を参考に上田自身が編集して載せたものです。)

琉球舞踊 古典女七踊り写真集『ウミサトゥユ』が、Richesse(リシェス):No.40(発売日2022年06月28日、ハースト婦人画報社)に紹介されました。

とても素敵な文章でご紹介いただきました。ご興味のある方はぜひご覧ください。

こちらがその雑誌の表紙です。

琉球舞踊 古典女七踊り写真集『ウミサトゥユ』は、引き続きAmazonや下記の書店で販売中です。

まだ手にしていない方はどうぞご覧ください。


○ジュンク堂書店

札幌店、郡山店、池袋本店、渋谷店、吉祥寺店、藤沢店、大宮高島屋店、新潟店、名古屋店、難波店、梅田店、三宮店、三宮駅前店、西宮店、広島駅前店、福岡店

○丸善

丸の内本店、松本店、名古屋本店、広島店

○紀伊國屋書店

札幌本店、徳島店、福岡本店

○リブロ

那覇市のデパートリウボウ内(沖縄県那覇市)

○HMV

サンエー浦添パルコ内(沖縄県浦添市)

「花風」を追加した電子版(Amazon Kindle版)もありますよ!

www.amazon.co.jp/dp/B0B189DX1X

琉球舞踊の各流派・会派の若手の方々に踊っていただいた、とても貴重な写真集です。

琉球舞踊 古典女七踊り写真集『ウミサトゥユ』の電子版(Kindle版)の販売が開始されました!

ご購入いただければ、パソコン、タブレット、またはスマートフォン(あるいはそのすべて!)にKindleアプリを入れて、いつでも簡単に見ることができます。

そして、電子版のみの特典として、琉球舞踊 雑踊り「花風」の写真を追加させていただきました。花風は古典舞踊ではありませんが、古典女踊りに通じるその抑制美から「準古典」とも呼ばれている踊りです。

価格は880円、Kindle Unlimitedをご利用の方は無料でご購入いただけます。

URLはこちらです:https://www.amazon.co.jp/dp/B0B189DX1X

または、Amazonで「ウミサトゥユ」、「琉球舞踊」などの語句で検索すると見つかります。紙の本と電子版はそれぞれ別のページとなっていますのでご注意ください。

とても貴重な写真集をいつでも手元で見ることができます。ぜひ一度ご覧ください!

琉球舞踊 雑踊りの「花風」を撮影しました。


撮影日:2021年9月20日

踊り:儀間佳和子さん

雑踊り(「ぞうおどり」、沖縄の言葉では「ぞううどぅい」)とは、琉球王国の時代ではなく、明治以降に創作された琉球舞踊のことを指しています。その中でも、洗練された感情表現で踊られる「花風」は、古典女踊りに通じるその抑制美から「準古典」とも呼ばれている踊りです。その歌詞は次のようになっています。


三重城に登て 手巾持上げれば

早船の習ひや 一目ど見ゆる


三重城に登って手巾を振りましたが、走る船は速くて、一目見えただけでした。

朝夕さも御側 拝み馴れ染めの

里や旅せめて 如何す待ちゆが


朝夕お側で暮らし馴れておりますのに、あなたが旅に行ってしまわれては、私はどんなにしてお待ちしましょうか。

想い人が遠くへ行ってしまう悲しさ、切なさを情感たっぷりに踊り上げます。髪は情結い(辻結い)、黒の絣をウシンチー(帯をせず上衣を下帯に挟み込む)で着て、花染めの手巾に藍傘。古典舞踊や他の雑踊りとはまったく異なる匂いを醸し出します。見る者の心を掴んで離さない、まさに珠玉の雑踊りと言えます。

(上記の歌詞の意味は、書籍やインターネット上の情報を参考に上田自身が編集して載せたものです。)

琉球舞踊 古典女七踊り写真集『ウミサトゥユ』の7つのこだわりをご紹介しています。今回は、その残り3つについて書きたいと思います。

・今を写し取るドキュメンタリーであり、私的な写真集でもある

それぞれの写真では、今の若手の方々がどのような着付けでどのように踊っているのか、といったものも残すことができます。それぞれの方々の今の一瞬を切り取った写真でもあり、そういった意味ではまさにドキュメンタリー写真です。

また、(カバーを取ると見ることができる)写真集本体の表紙と裏表紙には、踊りの世界に入っていく途中の一瞬を、半ば不意打ちで撮影した写真を掲載しました。撮影現場の流れの中で、その瞬間でしか撮れない写真となっています。

さらに、この写真集では、琉球舞踊のいわゆる大家の方々を撮影したわけではなく、私自身がそれぞれの踊りに合うと思われる方を独断で選び、自分のイメージを写真で具現化したという意味では、非常に個人的で私的な写真集でもあります。

日本だけでなく世界各地にはその地域にだけ伝わる踊りが存在しているはずです。それらを写真集に収めるということが世界中で広がっても面白いのではないか、と考えたりしています。

・さまざまな流派、会派

他の伝統芸能などと同様ですが、琉球舞踊にもさまざまな流派や会派があります。この写真集ではそれらを超えて、異なる流派・会派の方々に踊っていただいています。撮影するために具体的にその流派や会派を選んだわけではなく、たまたま自分とご縁のあった方々の中から選ばせていただいたため、特定の流派・会派に思い入れがあるというわけでもありません。

同じ踊りでも流派の違いにより2曲構成だったり3曲構成だったりするものもあります。または、それほどの大きな違いではなくても、細かな動きが違ったりもします。どの踊りの世界でもそうかもしれませんが、琉球舞踊にもそのような多様性があります。

・歌詞のみを掲載(歌詞の意味、現代語訳は付けていません)

各踊りの歌詞の具体的な意味を知りたいという方もいらっしゃると思いますが、歌詞の意味については、現代語訳をつけたり、どなたかが本などで書いていらっしゃる意味に統一するということは避けました。各踊りの歌詞の解釈については、大まかなところは一致したものがあると思いますので書籍やインターネットなどで検索していただければ分かるかと思います。または、漢字を使って歌詞を掲載していますので、そこから皆さん独自に意味を想像していただければよいのではないかと思います。

個人的には、踊りの解釈には幅があり、その人の人生の変化に伴って受け取り方が変わるのではないかと考えています。手元に置いて何度でも見ていただければと思っています。

琉球舞踊 古典女七踊り写真集『ウミサトゥユ』をまだ見ていない方や、とりあえず買ったりもらったりしたけどそのまま本棚に埋もれているという方々のために、琉球舞踊について、また、この写真集についてさらに愛着を持っていただけるよう、この写真集のこだわりについてここで7つ取り上げて書いてみたいと思います。


・古典女七踊りを撮影

撮影した7つの踊りはいずれも、琉球政府の踊奉行(おどりぶぎょう)、玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)が作ったとされる踊り。踊奉行とは琉球政府の役職であり、中国からの冊封使を歓待するなどの式典で披露される琉球舞踊を監督する役割を担っていました。つまり、琉球舞踊 古典女七踊りは、琉球王国の時代から受け継がれたものであり、洗練された動き、抑制された感情表現、紅型、古典音楽など、琉球舞踊の美しさの粋が凝縮された踊りと言えます。もちろん琉球舞踊には、古典だけでなく他にも美しい踊りがたくさんありますが、写真集として発表するにはこの七題が良いのではないかと考え、撮影しました。

・沖縄の自然を背景に撮影

紅型は沖縄の自然に映えます。劇場などの屋内で見る琉球舞踊も良いのですが、沖縄には南国の美しい自然が広がっており、独特の建物も存在します。それらを写さない手はありません!

ただし、本物の紅型(染めるのではなく、プリントされているものはイミテーションとか、フェイクなどと呼ばれることもあります。それと対比するために「本物の紅型」と表記しています)を海風にさらしたり、直射日光に当てるのは紅型を劣化させるため、本来なら避けたいところです。今回は特別に、(すべての踊りではありませんが)本物の紅型を着て野外で踊っていただくことができました。


・季節と場所のこだわり

それぞれの踊りにふさわしいと思われる季節に合わせて、その踊りの内容に合うと思われる場所を選んで撮影しました。

扇を持って「手に慣れ親しんでいる扇はどのような暑さも紛らわし、涼しい便りとする」と歌いながら踊る『作田』は、やはり暑い夏に撮るべきでしょう。「白瀬走川に流れる桜の花を集めて、あの人に貫花としてかけてあげたい」という唄にのせて踊る『本貫花』は、春に撮りたい踊りです。

また、「天川の池で遊ぶおしどりの羽の契りを誰も知らない」という唄にのせて踊る『天川』には、背景に川か池が写っていると説得力が増します。そして、着物を織る綛を持って踊る『かせかけ』には、琉球の家が背景に写っていると自然な感じになるはずです。

そのようなこだわりで、季節と場所を選んで撮影しました。

・背景に近代的なものが写り込まないように

近代的なビルやマンション、電柱、建物内のスイッチや配電盤などが写ってしまっては、古典舞踊の雰囲気が損なわれてしまいます。少しでも琉球王国の時代が感じられるようにと気を使って撮影しました。

(今後は、あえて近代的なものを写し込んだ琉球舞踊の写真もアリかな、などと考えています。)

残り3つはまた次回。。

最後にご紹介するのは、仲嶺夕理彩さん(「柳」)。

実は依頼時には知らなかったのですが、「柳」は彼女の流派のお家芸とのことです。知らずに依頼したのは奇跡というべきでしょうか。奇跡と言えば、撮影を始めようとしたときに、撮影現場の足元をヒラヒラと蝶が飛んでいました。すると、仲嶺さんはすらすらと「飛び立ちゅる蝶(はびる)、先づよ待てぃ連りら」と、まさに「柳」の歌詞を口ずさんだのです。「柳」の撮影開始時に「柳」の歌詞と同じ現象。この撮影はもう成功したも同然です(特技は早合点です)。

柳は、いくつかの小道具を使いながら踊ります。そのため、小道具と場所を替えながら撮影しました。実際の踊りの流れとはまったく違う順番で撮影しましたが、戸惑われる様子もなく、美しい踊りを披露してくださいました。

柳は、その歌詞から、教訓的な意味が含まれていると解釈することもできるため、ベテランの方のほうが合うのだろうかと考えたこともありましたが、あえて今回の7人の中で最年少の彼女に踊っていただきました。教訓歌をまさに教訓のように踊ることも良いのかもしれませんが、彼女の持つ若さと純粋さから、逆に柳という踊りの奥行き、広がり、美しさが増したように、撮影しながら感じることができました。

努力家で華があり、コミュニケーション能力も高い彼女との撮影は、とても充実した、カメラマンとしても勉強になる時間となりました。その撮影結果は、写真集に掲載した写真のとおりです!

今後の琉舞界を背負って行かれる方だと、勝手に期待しております。今回の写真は、そんな彼女の今の瞬間を切り取った貴重なものになること間違いなしです。

次にご紹介するのは、親川あやのさん(「諸屯」)。

実は、誰に踊っていただくか、どこでどのように撮影するかについて、一番悩んだのはやはり諸屯でした。琉球舞踊の中でも特に難しい踊りではないかと思います。現実でありながらも現実ではないような雰囲気を醸し出しつつ、怨念みたいなものを感じさせながらも生命力の表現は最小限となるような、そんな写真を目指していました。

彼女を知ったのは、ある沖縄民謡歌手の横で踊っているところを撮影したYouTubeの動画でした。諸屯といえば、おそらくかなり熟練の女性が踊るというイメージがあるのではないかと思いますが、それとは少し異なる印象の彼女を見て、なぜか諸屯の世界を表現しつつも、そこに何か新しい風を吹き込めるのではないかと直感したのです。

元々「元気娘」のような印象を持たれることが多かったようで、また、諸屯は練習したことがあるだけで実際に踊ったことはなかったため、諸屯を依頼されたことに多少の驚きがあったようにも見受けられましたが、もう私自身が良い写真になることを確信しているのだからどうしようもありません。踊っていただくしかないのです。

撮影当日。最初こそ少し戸惑いもあったようですが、徐々に諸屯の踊りの世界に入って行かれました。憑依体質というべきか、諸屯の踊りの主人公が徐々に乗り移っていくかのように感じました。そして、日が暮れていくとともに撮影場所の荒々しい米須海岸の風景とも相まって、より濃い写真となっていきました。その撮影結果は、写真集に掲載した写真のとおりです!

一言付け加えさせていただくと、上のように諸屯の写真には涙を流しているものも含めましたが、これは踊りのことを思いながら実際に流れ出た涙です。フェイクは一切ありません。撮影者としても非常に印象に残る、貴重な体験をさせていただきました。

次にご紹介するのは、儀間佳和子さん(「かせかけ」)。

「かせかけ」は、夫のために着物を織る女性の踊り。沖縄芝居の役者としてもご活躍の儀間さんは、曲がったことが嫌いな芯の強い女性を演じることもよくあります。そんな彼女なら、嫁いだばかりの不安や辛さを抱えながらも、夫を支えようという強い意志を持っている、そんな人間味をも感じさせる女性として踊られるのではないかと思い、かせかけを依頼させていただきました。

撮影場所は世界遺産の識名園。舞台上でもとにかく華がある儀間さんの踊りは、識名園の雰囲気や木漏れ日と相まって、まさに神がかっているような瞬間がたくさんありました。そんな瞬間を見て、たまたま通りがかった観光客がカメラを持って私の前に飛び出してきて、写真を何枚も写したほどです。

かせかけという踊りに込めた思いが体から溢れ、撮影中にすでに「これはすごい写真になる!」と思いながらシャッターを切っていました。識名園を選んだのは、沖縄の家を背後に写し込むことができるからです。着物は家の中で織るもの。本来なら外で撮影するのはリアルではないかもしれませんが、そのような違和感をまったく感じさせることのない素晴らしい存在感でした。その撮影結果は、写真集に掲載した写真のとおりです!